現在では一般的なリュックですが、実は現在のリュックが作られたのはとても最近で50年程度しか経っていません。しかし、そこに至るまでに人類は試行錯誤を繰り返してきたのです。ここでは、リュックの歴史についてご紹介してきます。
もくじ
紀元前3,300年:エッティの木製リュック
リュックの起源は、紀元前3,300年。実に5,000年以上も前にまで遡ります。
1991年、イタリアとオーストリアの国境のエッツ渓谷の氷河で見つかったアイスマン(愛称:エッティ)と呼ばれるミイラ。彼は銅製の斧や、弓、短剣などを装備しており、木製のリュックも見つかりました。もちろん現代のリュックとは異なります。
U字型のヘーゼル製の木の棒(長さ約2メートル)に、2枚の木の板(長さ38〜40センチメートル)しか残っていませんでしたが、おそらくそれらは紐で結ばれており、袋かネットをフレームに取り付けて使用されていたと考えられています。

1865年ごろ(南北戦争中):ホーボーブランケット
南北戦争中、料理や食事をするための道具や、応急処置キットなどの備品はそれぞれ独立して設計されており、携帯性は考慮されていませんでした。そのため、兵士たちは毛布でそれらを包み、肩の上から下げて歩きました。兵士たちは即興的に作られたこのバッグを「ホーボーブランケット」と呼びました。しかし、快適でなく、使い勝手も悪いものでした。
戦争において、体力を消耗せずに、多くの荷物を効率的に運搬することが必要となりました。

1874年:メリアムナップザック
南北戦争が終わり、ホーボーブランケットに代わる新しいバッグを作ったのが、第7歩兵連隊のヘンリー・クレイ・メリアム大佐でした。彼は木製のフレームと、キャンバス素材のバッグを融合させることで、バッグを身体から遠ざけ、身体への負担を軽減することが狙いでした。しかし、背中と肩への痛みを引き起こしてしまう結果となりました。
文献「Uniforms、Arms、and Equipment:Weapons and accouterments」によると、これは人間工学的に作られた初めてのバッグであると言われています。現代のリュックへの第一歩と言えるでしょう。

1908年:ベルガンフレーム
ノルウェーの自転車メーカーである、オレ・ベルガンは木材を鍵穴のような形状にデザインすることで、背中の輪郭に沿わせ、より快適にバッグを背負うことができるようにしました。彼はこのデザインで特許を取得しました(ノルウェー特許番号 20547)。オレ・ベルガンはハイキングや狩猟が好きで、狩猟中にこのアイディアを閃いたと言われています。
その後、彼は木材のフレームから、軽量な鉄管のフレームに改良しました。

1920年:ネルソンのトラッパーパック
ワシントン州ブレマートンの発明家、ロイド・ネルソンはアラスカを訪問した際に、イヌイット製の簡素なリュックを借りましたが、肩や背中の痛み、不快感に悩まされました。そこで彼はネルソンパックを開発しました。安定した木製のフレームを作成し、その上に背中のクッションと荷物を入れるパックを配置したものです。パックは長いスチールピンで取り付けることで取り外しを簡単にし、掃除がしやすくデザインされています。バッグ全体が2つのショルダーストラップで、身体にフィットするように設計されました。1924年に米国特許を取得し、量産を開始しましたが、当時はハイキングが一般的ではなく、当初の売れ行きは厳しいものでした。
彼が事業を売却した後の1930年ごろから、アメリカではハイキングやキャンプの人気が出てきました。アメリカのボーイスカウトがトラッパーパックを採用したのもこの頃です。

1938年:世界初のファスナー付きリュック
コロラド州ボールダーのジェリー・カニンガムは、リュックにファスナーを取り付けました。彼の使用目的はロッククライミングであったため、バッグの中に簡単に手が届くようファスナーを取り付けたと言われています。彼の会社であるジェリーは、後の1967年に世界初のナイロン製リュックを作ったことでも有名です。

1941年:アメリカ軍の開発したリュック
1941年、アメリカ陸軍はより多くの荷物を効率よく運搬するために、アメリカ陸軍として初めてのリュックを開発し採用しました。背中をさせるスチール製ワイヤーを取り付け、ショルダーストラップにパッドを配置し、負担を軽減しました。真鍮製のスナップフックで、荷物を取り出しやすくデザインされています。外側には3つのポケットがあり、より多くの装備を運搬可能にしました。
1940年代後半:日常使いのリュックへ
第二次世界大戦が終わると、子供たちの通学用としてリュックが普及し始めます。それ以前の1930年代はバッグすら持たず、革製のストラップに教科書をまとめて持ち運んでいました。これまで、ハイキングや軍事用途など、過酷な環境での使用が前提であったリュックは、ついに日常的な生活に溶け込み始めます。そのため、より軽量でファッショナブルなデザインが求められるようになりました。
しかし、大学生の間では評判が良くなく、彼らは頑なに何十年もストラップで教科書を運んでいました。
1930年代の学生 1940年代の学生
1967年:初のナイロン製リュックと、JanSportの設立
ジェリーがついにナイロン製リュックを発売しました。同年、世界最大のリュックメーカーであるJanSportも設立され、軽量ナイロンリュックを製作し、今日の学生用リュックへ進化しました。
JanSportの共同創業者である、スキップ・ヨーウェルは著書「The Hippie Guide to Climbing the Corporate Ladder and Other Mountains: How JanSport Makes It Happen」の中で次のように書いています。
学生は教科書やノートを持ち運ぶのに、手で持つか、ストラップを使うかしか選択肢がなかったのです。
スキップ・ヨーウェル
ワシントン大学の学生は、JanSportのリュックを使って、教科書やノートなどの勉強道具を持ち運ぶようになりました。大学内のスポーツ用品店では、当初はハイキング使用目的の学生向けに販売していましたが、学生が通学用に使っていることを知ったスポーツ用品店のマネージャーは、学生のニーズに合わせたリュックを製作することを依頼しました。このトレンドは広範囲に広がり、1980年代にはリュックは学生の必須アイテムとなりました。

現在のリュック
現在ではリュックの使用は一般的で、当初のハイキングなどのアウトドア目的や軍事目的だけではなく、性別や年齢にかかわらず、多くの人に愛用されています。グレゴリーや、ザ・ノースフェイスなどのアウトドアブランドだけではなく、グッチやルイ・ヴィトンのようなラグジュアリーブランドでもリュックを製作販売しています。リュックのデザインは多様化し、ビジネスシーンでも一般的に使われるようになってきました。
持続可能性という言葉がトレンドとなる今、アップサイクルのリュックも世界中で製作されています。

さいごに
このように歴史をさかのぼると、現在のリュックにたどり着くまでたくさんの試行錯誤があったことがわかります。私も旅行の際にはカメラなどの重い機材を携行するので、やはりリュックは必須アイテムですね。
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茶本 悠介(ちゃもと ゆうすけ) 代表の茶本です。大量生産された商品よりも、職人さんが情熱を込めて作った逸品が大好きです。 そんな逸品を世界中から探し出し、実際に職人さんを訪問してお話しを伺い、しっかりと吟味してセレクトしています。他ではなかなか見られない、ユニークな逸品をぜひご覧ください。 職人さんを訪問したときのお話や、私自身のこだわりの私物などのブログも書いています。 HUMMING …